2015年06月23日

映画『わたしを離さないで』



カズオ・イシグロの小説『わたしを離さないで』を読み、それを原作とする映画を観た。よく言われるように小説と映画は別物で、それぞれの魅力があるとは思うのだが、この小説の恐るべき精妙さに感心した直後だったので、映画のほうはあらすじをスケッチしているような印象を受けた。とはいうものの、映像として目の前に現れるヘールシャムやコテージの風景、キャシーたちの姿形、聞こえてくる彼らの声やさまざまな音、そして Never Let Me Go の歌声、これに接することの喜びは、やはり読書にはない魅力だろう。

いまから考えると、映画を先にして、小説はあとにしたほうがよかったかもしれない。そうすれば、映画の雑な部分は気にならず、小説は小説で、映画でわからなかった細部やプロセスがたっぷり楽しめるのではないかと思う。まだどちらも、という方には、映画を先に、と勧めておこう。

ところで、小説を読みながら、映画を観ながら、魚の小骨のようにずっと心のなかに引っかかることがあった。人間がどれほど堕落しようとも、この物語の設定ほど残酷なシステムは採用しないだろうという思いだ。いや、いまでももっと残酷なことがこの世界では行われているではないか、と言われればそれはそうなのだが、少なくとも民主主義国においてはそこまでのことはないはずだ、と思う。弱者を犠牲にして強者の利益を確保する、さらには犠牲にするための弱者を生み出していく、世の中はそんな仕組みになっているんじゃないのか? それと『わたしを離さないで』の世界にどれほどの違いがあるのか? 紙一重じゃないのか? そのように問われれば、自信は揺らぎはじめるのだけれども。


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2015年02月01日

映画『ビッグ・アイズ』



約一年ぶりの更新だな。奇しくも、今回の記事で取り上げる作品には、前の記事で紹介した『アメリカン・ハッスル』に出演しているエイミー・アダムスが主演しているのだが、今回もまた彼女の独特の表情に魅了された。物語性豊かな表情とでもいおうか、彼女の表情は、物語に深みと魅力をもたらすうえで大きい役割を果たしているように感じる。

この映画は、妻が描いた絵を夫の作品と偽って米国アートシーンで成功した夫婦の物語。画家をきどってはいるが画才より商才に富む夫と、才能豊かな妻。夫は妻の作品の魅力に気づき、商魂たくましく妻の作品を売り出していく。偽りはやがて隠しきれなくなり、妻は夫の元を去ってメディアに真実を明かすのだが…、という話。事実に基づくというのだから、世界は面白いものだ。
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2014年02月11日

映画『アメリカン・ハッスル』



FBIとの司法取引で捜査に協力することになった詐欺師の男女が、政治家たちや大物マフィアまで巻き込むヤバイ捕り物に関わってしまい、命まで危うくなる……という話。詐欺モノと聞くと、いかしたやつらが華麗なトリックで大金持ちから大金を巻き上げる、みたいなオシャレな映画を思い受けべてしまうのだが、その手の話ではない。だますほうもだまされるほうも、どこか抜けているし、生きのびようと精一杯。頭が薄い中年太りの主人公アーヴィン(クリスチャン・ベイル)も、本能だけで生きているかのようなその妻も、アーヴィンの恋人で詐欺稼業のパートナーであるシドニー(エイミー・アダムス)も、FBI捜査官も、みな不完全で、弱く、それゆえに愛おしい。

70年代のアメリカが舞台で、ファッションも音楽も、その時代を濃厚に感じさせるものになっている。

公式サイトによると実話なのだそうだが、事件を描くというより、70年代のアメリカの一断面を描くことを意図した作品、というように僕には思えた。
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2014年02月08日

映画『BECK』



これもバンドもの。同じバンドものでも、『ソラニン』などはアマチュアレベルの話であるのに対して、こちらはプロデビューをしようかというレベルなので(『NANA』なんかもそうだったな)、いきおい音楽的なシビアさが話に関わってくる。といっても、全体としてはコミカルで元気な雰囲気なので、何も考えないで楽しむ、というのがこの映画については正しい見方かもしれない。かなり荒唐無稽なところもあるし。
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映画『クロエ』



大学教授の夫(リーアム・ニーソン)と高校生の一人息子と暮らす女医キャサリン(ジュリアン・ムーア)が、夫の浮気を疑い娼婦クロエ(アマンダ・セイフライド)を雇って夫を誘惑させるのだが、その報告を聞きながら嫉妬と欲情を抑えきれず、クロエと関係を持ってしまい、自分がクロエとの関係から抜け出せなくなっていく……、という話。

美しくもスタイリッシュな映像、若いアマンダ・セイフライドの小悪魔的魅力、ジュリアン・ムーアの表現する中年女性の切ない懊悩など、大人向けの見どころ多し。
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2014年02月06日

映画『ソラニン』



これは青春映画であり、恋愛映画であり、音楽映画である。さらにいうと、音楽映画のなかでも「バンドもの」に分類される映画である。ほら、メンバーが集まって練習して、困難を乗り越えてライブをやる、そういう映画があるでしょう? 『リンダリンダリンダ』とか『スクール・オブ・ロック』とか。『スイング・ガールズ』なんかもそうかな。この手の映画でハズレに出会ったことはない。自分のなかでは「バンドもの=鉄板」という法則が成り立っているしだいであり、『ソラニン』もまたその例に漏れないできばえなのであった。

主演は宮崎あおい。ギターとボーカルを相当練習したそうで、ライブのシーンはじつに素晴らしい。サンボマスターのベーシスト近藤洋一がバンドのベーシスト役を好演。財津和夫のカメオ出演もあったりする。原作者が作詞し、アジカンの後藤正文が作曲したテーマ曲「ソラニン」は、それ自体が名曲といってよいだろう。
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2014年01月17日

映画『フル・モンティ』



かつて鉄鋼業で栄えたもののいまは不景気のどん底にある、イギリスの地方都市を舞台に、失業中の男たちが一発逆転を狙い、自らがダンサーとなって男性ストリップの興行を打つ、という話。厳しい生活環境のなかでもがく荒っぽくも温かい労働者階級の男たちの奮闘をコミカルに描いた佳作。

題名は、真っ裸、という意味らしい。
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2014年01月14日

映画『チョコレート』



白人中年の刑務官(ビリー・ボブ・ソーントン)と若い黒人の女(ハル・ベリー)が偶然出会い、やがて恋に落ちるという話なのだが、その出会いに先立って、二人はそれぞれの息子をそれぞれのいきさつで失ってしまっており、いわば人生のどん底のなかで二人は出会い、互いにすがるように、そこにかすかな光を求めるようにして恋に落ちていく。しかし、その愛には、つねに暗い影がつきまとう…。

恋愛物語といえばそうなのだが、人種差別、ままならない親と子の関係、人生、そういったテーマが絡み付いていて、これほど重苦しい恋愛物語もないのではないだろうか。見ごたえのある作品だった。ハル・ベリーは、本作でアカデミー賞の主演女優賞を受賞。
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映画『鑑定士と顔のない依頼人』



名優の演技+映像美+ミステリアスな物語。これが楽しくないわけはないよな。最後のどんでん返しは、ちょっと無理があるような気がしないでもないが、退屈する隙のない131分だった。

主演のジェフリー・ラッシュは、アカデミー賞、エミー賞、トニー賞の3つで主演男優賞を獲得しているそうで、まだ60代前半。今後、どんな演技を見せてくれるのか楽しみ。
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2014年01月13日

映画『キャット・ウーマン』



化粧品メーカーの秘密を知ったために殺されてしまう女性デザイナー(ハル・ベリー)が、猫の秘密の力によって、猫のような身体能力を持つキャット・ウーマンとしてよみがえり、化粧品メーカーの悪玉と戦い悪行を阻止する、という話。

ハル・ベリーが、猫っぽさをセクシーかつキュートに演じていて、とても楽しい。彼女はこの映画でラジー賞の最低主演女優賞を贈られているのだが、いやいや、僕はいい演技だったと思うし、映画としてもなかなかよかったと思うぞ。
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映画『大統領の陰謀』



ワシントンポストの若手記者二人がウォーターゲート事件の真相に迫っていく過程を描いた作品。

こういう映画らしい映画は、楽しめるし、嬉しくなるな。明確な主題があって、魅力ある役者がしっかり演技していて、的確で無駄のない演出がなされていて、最初から最後まで目が離せず、終わってからも良い余韻が残る。
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2013年12月24日

映画『ハノーバー・ストリート』

これはとてもよかった!

内容は、戦火のロンドンで出会った米軍パイロット、ハロラン(ハリソン・フォード)と人妻マーガレット(レスリー=アン・ダウン)が恋に落ち、逢瀬を重ねるようになるのだが、運命のいたずらでハロランは、ドイツ領に潜入するマーガレットの夫と行動を共にすることになる…、というもの。

シンプルな物語でありながら、観る者を巧みに引き込む演出と魅力的俳優陣。うっとりさせ、ハラハラさせ、ホッとさせ、切なくさせる、これが映画というものだな。

勇敢でちょっと乱暴で、かつ情に厚いハロラン。ハリソン・フォードが一番生きるタイプかな。相手役のレスリー=アン・ダウンのことは知らなかったけれども、上品で清楚で美人。ずっと見ていたくなるような女優だな。



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映画『インベージョン』

墜落したスペースシャトルに付着していた地球外のウイルスが人に感染し、感情のない人間に作り変え、どんどんと感染者を増やしていくという話。家族や恋人など身近な人が、外見は変わらないのに感情のない別の人間になってしまうことの恐ろしさよ。主演はニコール・キッドマン。怖い映画には美女が映える。ニコール・キッドマンが出ずっぱりなので、ファンにはたまらんだろう。

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映画『サンタモニカの週末』

60年代のアメリカのラブコメ。お調子者の男と、社長の愛人をしているイタリア女がひょんなことで知り合って、周囲を巻き込んで織り成すおバカな人間模様の果てに、愛を見出す、みたいな話。軽い映画なんだけども、クラウディア・カルディナーレ、シャロン・テートなどの女優陣の圧倒的魅力に引っ張られて最後まで見てしまった。

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2013年11月20日

映画『永遠のマリア・カラス』

前知識なしで見たので、最初はドキュメンタリーかとも思っていたのだが、予想とはかなり違った。といって、期待はずれということではない。楽しめた。

世紀の大オペラ歌手マリア・カラスの晩年(といっても50代なのだが)を、フィクションも交えてドラマチックに描いたもの。日本公演での失敗のトラウマをかかえ、表舞台を去って隠遁生活を送るマリアを、長年の友人である音楽プロデューサーがオペラ映画の主演女優として復活させようともくろみ、それは成功したかに見えたのだが…、というストーリー。劇中劇となる「カルメン」のシーンが素晴らしい。

この映画、オペラを知らない僕でも楽しめたのだから、オペラファンなら、さらに楽しめることだろう。
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映画『ランダム・ハーツ』

飛行機事故で死んだ不倫カップルの、残されたそれぞれの配偶者が、出会い、恋に落ち、愛する者を失った悲しみから立ち直っていく過程を描いた作品。ハリソン・フォードが、残された者の苦悩を好演。
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2013年10月16日

映画『セカンドバージン』



やり手編集者の中村るい(鈴木京香)が、妻のいる17歳年下のエリート証券マン鈴木行(長谷川博己)と恋に落ちて同棲を始めるのだが、鈴木行は事業に失敗し、零落して裏社会へと身を落とし、失踪してしまう。5年後、鈴木がマレーシアにいるという噂を聞いて、るいは赴くが、そこでマフィアの一味となった鈴木がマフィアに襲われ瀕死の重傷を負う場面に遭遇する…。

いらなくなったギターエフェクターをヤフーオークションに出すべく、ヤフーのプレミアム会員になったのだが、そうするとGyaoの有料コンテンツの一部が無料で見られる。ということで、私の好きな女優の一人である鈴木京香主演の『セカンドバージン』を観てみたのだが……、正直なところ、あまり楽しめなかった。鈴木京香が見たい、あるいは相手役である長谷川博己が見たい、という人以外にはお勧めできない。

いや、鈴木京香は頑張っている。優秀で強気で強引な編集者の仕事っぷりも、それが男に抱かれるときにはかわいくなってしまう女らしさも、上手に演じていると思った。しかし、映画全体の質が、なんというか、よくできているとは僕には思えなかったなあ。

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2013年10月09日

映画『世界一美しい本を作る男』

ドイツのシュタイデル出版の社長ゲルハルト・シュタイデルの多忙な日々を追ったドキュメンタリー作品。ある日はファッションショーの会場でカール・ラガーフェルドと話し、別の日にはギュンター・グラスの自宅を訪れ、かと思えば米国に飛んでロバート・フランクと打ち合わせ、社に戻ってはジョエル・スタンフェルドと印刷の色合いについて相談する、という具合。

本を作ろうとしているアーチストと直接話し、中身にふさわしい器としての本を作り上げていく。シュタイデル自身は、質素な服装で、ときには無精ヒゲを伸ばし、工場のおじさんといった風貌なのだが、この彼が一流アーチストたちの信頼を得ている「世界一美しい本を作る男」なのだ。

作っているのは工業製品ではなく作品であると彼は言う。彼の仕事ぶりは、電子出版花盛りの現在においてなお、形、色、サイズ、手触り、香り、重み、などを備えた紙の本には、抜きがたい魅力があるということを再認識させてくれる。


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2013年09月19日

映画『デビル』

タイトルからてっきりホラーかと思って観はじめたのだが、全然違った。武器調達のために米国に渡ったIRAの若者(ブラッド・ピット)と、その若者を下宿させる警察官(ハリソン・フォード)の人生の交差と悲劇を描いた作品だった。二大スターの競演で、最後まで惹きつけられた。

1997年の作品なのだが、少し古めかしさも感じた。冒頭、北アイルランドでのIRAと政府側との激しい戦闘も描写されているのだが、全体として、どこかのんびりした感じというか、なんとなく牧歌的な空気が感じられるのだな。それは、アメリカ同時多発テロやイラク戦争を経て、テロや紛争のイメージが変わってしまったということだろうか。以前は、悲劇のなかにもまだ人間味があった、ということだろうか。

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2013年08月03日

映画『選挙』

Gyaoで無料で公開されているのを観た。
2005年、川崎市の市議選に、公募で自民党の公認候補となって出馬した政治活動未経験の男性の選挙戦に密着したドキュメンタリー映画。監督の想田和弘が「観察映画」というとおり、ナレーションもBGMもなく、ただただ対象を観察するかのように、街頭演説、選挙事務所のようす、級友たちとの会話、妻との会話・口論、保育園の運動会まわり、神社のお祭りへの参加などなど市議候補の十数日間を追う。

そんな映画が面白いのかと問われるなら、答えはイエス。僕は惹きこまれた。何が面白いかというか、そこには未知の世界、すなわち選挙の生々しい舞台裏があって、「こうやっているのか」「こうなっているのか」という驚きがある。街頭演説では3秒間に一度は名前を言う、配偶者のことは妻ではなく家内と呼ぶ、握手は相手の目を見てするなどなど選挙の具体的で細かいノウハウも出てくる。選挙事務所に集まるボランティア(自民党の支援者)や、自民党候補の演説会に集まる人々の姿にも「そうか、こういう人たちに支えられているのか」という感慨を覚える。

自民党の公認候補として選挙に出るということは、上から下までがっしりと構築されているシステムのなかに組み込まれるということで、否応なしにそのジグソーパズルの1つのピースとしての形に合わせなければならない。その苦行めいた選挙戦の日々に、映画を観ているこっちまで息苦しくなってくるようだった。

「未知の世界」と書いたけれど、じつは知っている部分もないではない。子どもの頃は、父親が地方都市の市会議員をやっていたので(自民党ではない)、選挙のたびに家庭がそこに巻き込まれた(授業中に父親の宣伝カーが学校の近くを通るのが苦痛だったなあ)。学生時代は、それとはまた別の政党の選挙にボランティアとして参加したこともある。その経験と照らし合わせると、既成政党はそれぞれに色合いの異なる支持基盤や支援団体を持っているのだが、選挙のノウハウは、かなりの部分、共通しているんじゃないかという気がする。そしてそれは、候補者の掲げる政策であるとか、主義主張であるとかよりも、もっと泥臭いもの、人間的要素に関わるものが大きいんじゃないかという気がする。そこに、何かやりきれない感じが僕はしたんだけれど、皆さんはどうだろうか。

期間限定だと思うけれど、いまならまだこの映画が無料で視聴できるので、ご興味のある方はどうぞ!

http://gyao.yahoo.co.jp/player/01017/v00001/v0000000000000000001/
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