2012年06月02日

『複雑さと共に暮らす デザインの挑戦』D・A・ノーマン著、新曜社

『誰のためのデザイン』『パソコンを隠せ、アナログ発想でいこう!』など、モノのデザインやヒューマンインターフェースに関する著作で知られているノーマンの新著(といっても2011年8月の刊行だが)。アフォーダンスの概念を一般に知らしめたのがこの人だ(ただし、誤解された広まってしまったと本書で著者は述べている)。

本書のテーマは、この世界が複雑なものである以上、複雑さをもった製品の存在も避けがたい。排除すべきなのは、複雑さではなく、分かりにくさだ。複雑でも分かりやすいものもあり、単純でも分かりにくいものもある。複雑さと分かりにくさは別のことなのである、というようなこと。

デザイン、UI、TCなどの分野で仕事をする人にとって示唆に富む本ではあるが、これを仕事に活かすとなると、それなりの努力と才能が必要だろうなあ。

マニュアルとテクニカルライターに関する記述があるので、少し長くなるが引用しておこう。p.270にある「学習の補助」というところだ。

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 製品の仕組みを説明する従来の方法は、インストラクションマニュアルによるものだ。しかし、それらのほとんどは価値がない。人は読もうともしない。マニュアルを読まない理由の一つは動機の欠如だ。退屈でつまらないマニュアルを誰が読みたいと思うだろう。どうしてさっさと始めないのか。人は新しい製品やサービスを最初に使ったときに、すでに達成すべき目的を何か持っているのだ。その目的に達したいのであって、マニュアルを読むことは迂回のように見える。
 ほとんどの人は「ジャストインタイム(ちょうどそのとき)」の学びを望んでいる。人は学ぶ必要があるとき学ぶのがベストだ。論理的には、必要性が生じる前に教示が来るべきだ(このように理論では、何をするかを予め知っているとされている)が、必要性が生まれる前には学ぶ興味はほとんどない。
 多くのマニュアルは、製品の機能を、ときにはアルファベット順で、制御ボタンや機能が何であるかについて細かくすべて列挙しようとする。このことは、動機とジャストインタイム学習の両方の原理に反している。最良の説明法は、使用される文脈で、特定のタスクがどのようにできるかを示しながら、説明することだ。教示は、なすべきタスクに焦点を当てたものでなければならない。たしかに、機能を完全に記述する必要性はあるが、これは付録に置くのがせいぜいだ。そして、必要に応じて参照できればよい。主要な学習ツールではけっしてない。
 人は行動から学ぶ。話でこうすべきと言うことは、やっているときにコーチするほど有効ではない。たしかに、これは多くの製品やサービスではあまり実用的なことではないが、優れた代替案として短いビデオデモがある(「短い」を強調しておく)。ビデオは、抽象的な記述としてではなく、具体的な行為として文脈における操作を示すことができるので、理解が容易になる。ビデオは簡潔で要点をついたものでなければならない。十分から三十分のビデオが多くの操作をデモするのに充分である。しかし、ビデオはタスクの実際のデモでなければならず、製品を売ろうとしたり、できるすべての機能を示すようなものであってはならない。後者のようなビデオは非生産的である。
 マニュアルはすばやく効率的な教示素材としてとっておくのがよい。短いデモにチュートリアル、そして最後に、より進んだ知識を求める人のために、すべての機能とオプションの趣旨に関する完璧な記述をできるだけイラスト付きで用意する。会社が法律的な注意、その他の要素を含めることが必要なら、製品の快適なエクスペリエンスを邪魔することにならないように、どこか他の場所に置くのがよい。マニュアルは製品の不可欠な部分というよりも、高価なおまけだとメーカーは考えることが多い。そこで、最後まで放っておかれ、急いで制作され、アクセスするのも使うのも難しくなるにもかかわらずコスト軽減のために電子的に配布される。マニュアルを書いている人たちはこの問題をよく知っているが、この状況を変えるほどの権限は持っていない。
 しかし、良いマニュアルよりもさらに優れているのは、マニュアルを必要としないシステムである。マニュアルを必要としない製品をデザインするのに手助けできる最善の人は、マニュアルを書いているテクニカルライターだ。彼らは製品に直面する人々の困難を知っている。製品を説明するのがいかに難しいかを知っている。自己説明的ではないまでも、説明が容易な製品をデザインするのを手助けできる。
 最良の製品は最良のエクスペリエンスをもたらすものだということを会社は認識すべきだ。せっかくの素晴らしいエクスペリエンスを、なぜ起こり得る危険性や法的な注意事項などを強調したマニュアルで台無しにしてしまうのだろうか? 製品が約束している素晴らしいことすべてをどのように成し遂げるかを示す方がはるかに有効なときに、どうしてエクスペリエンスを機能の、退屈でうんざりする一覧で台無しにしてしまうのだろうか? マニュアルを、簡潔で生産的でエクスペリエンスの本質的な部分だけのものにしよう。
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posted by kunio at 02:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 本・文学
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