2011年09月22日

『ある晴れた日に』加藤周一著、岩波現代文庫

カイリー・ミノーグの本はまだ読み終えてないんだけども、ちょっと寄り道して加藤周一の本を読んだ。これは評論ではなく小説。加藤周一は小説も書いているのだなあ。

本作は敗戦まぎわの東京と信州を舞台に、青年医師と周辺の人々の抑圧された日々を描いたもの。そこには、友人の姉や職場の看護婦とのロマンスも挟みこまれている。傑作とは言わないけれど、大いに引き込まれた。

序で渡辺一夫はこう書いている。「何よりもこの作品が太平洋戦争の一記録にもなるという点で、また、近代戦争の銃後に於ける人間性の圧殺に対する抗議証言にもなるという点で、忘れ難い印象を残されている」。戦争の小説というと戦場を描いたものを思い浮かべるが、この作品では銃後の日常が描かれているのだ。そして、そこからは、戦時下であっても、戦時下なりの「日常」が東京にもあったし、信州などにおいては平時とほとんど変わらない「日常」があったということ、しかしその「日常」には人間性を圧殺する厚い雲が垂れ込めていたということなどがわかる。これもまた戦争の現実だろう。1950年に発表された作品なので、著者にはまだ戦争の記憶が明瞭で生々しかったはず。そういう意味で、ここに描かれた空気は、リアルなものに違いない。渡辺一夫が「人間性の圧殺に対する抗議証言」と受け止めていることも、その傍証といえるだろう。

自伝『羊の歌』を読んだときにも感じたが、加藤周一はなかなか隅に置けないところがある。本作はフィクションではあるけれども、主人公が青年医師ということでそこには著者が投影されているといってよいだろう。その青年医師は、知的でカヨワクてメランコリックな女性(友人の姉)の姿に心を奪われたり、肉感的で生活力に溢れる明るい看護婦を海辺で抱いたりする。そういう主人公が女性へ注ぐ耽美的なまなざしに、共感を覚える。
posted by kunio at 03:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 本・文学
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