2015年06月23日

映画『わたしを離さないで』



カズオ・イシグロの小説『わたしを離さないで』を読み、それを原作とする映画を観た。よく言われるように小説と映画は別物で、それぞれの魅力があるとは思うのだが、この小説の恐るべき精妙さに感心した直後だったので、映画のほうはあらすじをスケッチしているような印象を受けた。とはいうものの、映像として目の前に現れるヘールシャムやコテージの風景、キャシーたちの姿形、聞こえてくる彼らの声やさまざまな音、そして Never Let Me Go の歌声、これに接することの喜びは、やはり読書にはない魅力だろう。

いまから考えると、映画を先にして、小説はあとにしたほうがよかったかもしれない。そうすれば、映画の雑な部分は気にならず、小説は小説で、映画でわからなかった細部やプロセスがたっぷり楽しめるのではないかと思う。まだどちらも、という方には、映画を先に、と勧めておこう。

ところで、小説を読みながら、映画を観ながら、魚の小骨のようにずっと心のなかに引っかかることがあった。人間がどれほど堕落しようとも、この物語の設定ほど残酷なシステムは採用しないだろうという思いだ。いや、いまでももっと残酷なことがこの世界では行われているではないか、と言われればそれはそうなのだが、少なくとも民主主義国においてはそこまでのことはないはずだ、と思う。弱者を犠牲にして強者の利益を確保する、さらには犠牲にするための弱者を生み出していく、世の中はそんな仕組みになっているんじゃないのか? それと『わたしを離さないで』の世界にどれほどの違いがあるのか? 紙一重じゃないのか? そのように問われれば、自信は揺らぎはじめるのだけれども。


posted by kunio at 17:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/144707908
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック