2009年11月22日

映画『THIS IS IT』

いわずと知れたマイケル・ジャクソンのツアーリハーサル映像を中心に構成された映画。ツアーのメイキングムービーといってよいだろう。説明的サブタイトルをつけるならば「世界最高のツアーはいかにして創られるか」といったところ。一流のダンサー、ミュージシャン、スタッフたちが最高のショーを創るために最大限の努力をしている様子を観客は目の当たりにする。

意外だったのが、マイケル・ジャクソン本人が、演奏、ダンス、照明、演出などのさまざまな面で細かく的確な指示を出し、全体をコントロールしているようであったこと。それぞれの部門の監督はいるのだが、全体を統括し、高いレベルへと推進していっているのがマイケル自身であるようなのだ。

そのようなことを行うには、音楽や踊りの才能はもちろんだが、忍耐力やコミュニケーション能力、広い意味での社会性が欠かせないと思う。最近の10年間におけるマイケルをめぐるさまざまなスキャンダルは、まさにその社会性の欠如を世界中に印象付けてきた。しかし、その印象が誤ったものだということをこの映画は証明しているのではないだろうか。すくなくともショーの世界においては、マイケル・ジャクソンは、最高のパフォーマーであるばかりでなく、有能な演出家でもいられるといってよいだろう。

失われた存在の大きさを再確認させられる映画であった。

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2009年11月21日

『ダンセイニ幻想小説集』ロード・ダンセイニ著、荒俣宏訳編、創土社

アイルランドのダンセイニ(1878-1957)の初期の幻想小説を集めた本。壮麗で詩的な文章で神々や人々、都市の運命をアイロニカルに描いている。冒頭に掲げられた「序 ペガーナの神々」に全体の雰囲気がよく表れているので引用しよう。

――まだこの世が始まらぬ前の霧のなかで、≪宿命≫と≪偶然≫とが賽(さい)を振って勝負を決めたことがあった。そして勝負に勝ったものは霧を超えてマアナ=ユウド=スウシャイのもとにおもむき、次のように言葉を寄せた。
「さて、われのために神々を創れ。われ賽に降り勝ち、勝者に供せるものを得たればなり」と。
 その賭けに買ったものが誰で、また、この世が始まらぬ前の霧を超えマアナ=ユウド=スウシャイに声を掛けたものが≪宿命≫だったのか≪偶然≫だったのか――知るものは誰ひとりいない――


古雅な文体や壮大な想像力に惹かれるか、「いったい何の話だ?」と端から興味を持てないか、読者の反応は二つに分かれるのではないだろうか。僕自身、読んでいて両方の反応をいったりきたりしていたように思う。

翻訳は若き日の荒俣宏。巻末に、生硬でハイテンションで情熱的なあとがきを寄せている。氏の若さと時代の空気というものだろうか。初版は1972年(昭和47年)。あさま山荘事件の年だ。
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2009年11月17日

「返戻」と「返礼」

保険料の負担を軽減するために、1つ保険を解約することにしたのだが、保険会社の人が電話ごしにいうには「へんれい金」が支払われるという。

ほうほう、これまで顧客でいてくれたことに対する「礼」としてのお金か、などと解釈したのだが、考えてみるとそれを「返礼金」と呼ぶのはちょっとおかしい。いまになってそれが「返戻金」のことだと気づいた。というか、「へんれいきん」をかな漢字変換したら「返戻金」になったので気づいた。ふーむ、これでヘンレイと読むのか。常識?
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2009年11月16日

映画『アンヴィル! 夢を諦めきれない男たち』

80年代に一世を風靡し、日本公演も成し遂げたもののその後は鳴かず飛ばずで、現在は一般の仕事で生活を支えつつ、いまだにロックスターへの夢をあきらめていないヘビメタバンド“アンヴィル”のリップス(ヴォーカル&ギター)とロブ(ドラムス)。もう50歳だというのに夢を追い続ける二人を、家族たちは複雑な心境で応援している。久しぶりのヨーロッパツアーの仕事が舞い込むが、トラブル続きのツアーで散々な目に遭う。それでもめげない彼らは、借金をして新作のレコーディングに挑むのだが……、という内容のドキュメンタリー映画。

ふだんは陽気だが、ときに激怒し、ときに泣き、感情をさらけ出すリップスと、15歳からリップスの友達でつねにリップスの感情の受け止め役を果たしてきたロブ、この二人のキャラクターが魅力的で、ヘビメタファンではない自分もいつしか、心の中で彼らに声援を送っていた。

お気楽なロック映画かと思いきや、人生についてしみじみとした思いにさせられるなかなかに深みのある作品。正直、ラストではホロリとしちまいましたよ。
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2009年11月14日

映画『スコットランド・カップの奇跡』

スコットランドリーグの弱小チームの頑固親父監督の家族の葛藤をスパイスに、チームが選手の奮闘とサポーターの支えでスコットランド・カップ戦を奇跡的に勝ち上がっていくさまを描いたサッカー映画。彼の地でサッカーがいかに人々に愛されているか、リーグでの2強、レンジャーズとセルティックの存在感が大きいかなどがよく伝わってくる作品で、「ああ、中村はこういうところで闘っていたのか」と感慨を覚えつつ観ることができた。ただ、映画としての出来ばえは今一つという気も。家族の葛藤の和解も、カップ戦の興奮も、どちらも不完全燃焼という感じがした。

監督はマイケル・コレント。ロバート・デュヴァルが、長いサッカー人生を歩んできた監督の人間味あふれる頑固親父ぶりを好演している。

2000年、米映画。
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2009年11月04日

レヴィ=ストロース氏の訃報に思う

11月1日に亡くなったという。不謹慎だとは思うが、亡くなったことにではなく、そこまでまだ存命だったことに驚いた。100歳だったそうだ。

氏の名前を初めて耳にしたのは1981年だったはずだ。大学1年の教養課程で選択した言語学の授業で、構造主義について教わるなかでその名前が出てきた。その時点ですでに権威であり大御所であった。

生きながらにして、前半生はすでに歴史のなかにある。100歳まで生きるということは、そういうことでもあるのだろうなあ。
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2009年10月27日

宅配ボックスに消えた荷物を追って

その女は疲れた表情で事務所に現れた。浮気調査は請け負っていないと私があてずっぽうで言うのを無視して彼女はこう切り出した。
「荷物を探してくださらないかしら」
「荷物というと?」
「中身については言いたくないわ。ネットで注文したものよ。マンションの宅配ボックスの2番に入れたという伝票が郵便受けにあったの」
「じゃあ宅配ボックスカードを差し込んで品物を受け取れば済む話だ」
「カードを入れても“荷物は届いていません”と表示されてしまうのよ。荷物はどこに行ってしまったのか…。力を貸していただけないかしら?」
「よろしい、引き受けよう。1日あたり100ドルと必要経費をいただく」
「ここに100ドルと、宅配ボックスカードがあるわ」

私はまず伝票に書かれた連絡先に電話をかけてみた。荷物を配達したドライバーは、間違いなく2番のボックスに入れたと断言した。彼は嘘はついていないようだ。

次にわたしは、問題の宅配ボックスのところに行った。カードを差し込むと、確かに“荷物は届いていません”と表示される。そこで、配達者が行う、荷物を入れる操作をおこない、2番のボックスを開けてみた。そこにはアマゾンのラベルの貼られた荷物があった。

中身は本かCDかDVDだろうか。私の知ったことではない。荷物を受け取った女は、2つのグラスにウイスキーを注ぎながら言った。
「このあと、お時間はあるかしら」
「荷物は見つかったが、まだわかっていないことがある」
「どうしても中身を言わせたいのね。シン・リジーのライブのDVDなの…」
「そのことじゃない。なぜ荷物が入っているのに宅配ボックスが動作しなかったのか。これを解決しなければ、また悲劇が繰り返される」

私は宅配ボックスのサービス窓口に電話をかけた。相手は若い女だった。事情を説明すると、女は慇懃に、しかし冷凍マグロのような態度で言った。「その荷物は高さが2cm以上でしょうか?」――今回の荷物は薄く、寝かして置くと高さは2cmもない。

宅配ボックスは、高さが2cm以下の荷物は認識しない仕様なのであった。私は宅配ボックスの前にとって返し、前面に貼られている大きな注意ラベルを確認した。赤地に白抜き文字で「厚さ2cm以下のもの(チラシ、封書、透明なもの等)は、入れないでください。お届け操作になりません。」と明示してある。

宅配ボックスの注意ラベル
悲劇の原因は、注意ラベルをちゃんと読まなかった宅配業者のドライバーの不注意にある。しかし、私自身、宅配ボックスの前に立ちながらその注意ラベルに気づかなかった。いや、何か文字が書いてあることはわかっていたが、読もうとはしなかった。私はドライバーを責める気にはなれなかった。宅配業者に電話をかけ、2cm以下の荷物は持ち帰って再配達したほうがよいと忠告をした。

疲れきって家に戻ると、依頼者の女が待っていた。「あなたにはよくしていただいわ。お金ではないお礼をしたいの」そういって彼女は部屋の灯りを消した――

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※宅配ボックスに関する記述以外はフィクション(妄想)です。
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2009年10月25日

映画『パイレーツ・ロック』

ロックの放送がBBCで一日45分に制限されていた1960年代後半のイギリス。その時代、海上から24時間ロックを流し続けていた海賊局があったという設定で、その船に暮らす個性的なDJの面々や、そこに放り込まれた若者カールの、ロックな日々をコミカルに描いた作品。DJたちの紹介でストーンズ、キンクス、クリームなど当時のヒット曲もたっぷりと流れる。

全編、ロックへの愛に溢れる映画で、当時の音楽が好きな人には楽しいとは思うのだが、いかんせん物語が薄く、大人の鑑賞に耐える内容にはなっていないと感じた。ロック好きな高校生あたりにはジャストフィットするかもしれない。
posted by kunio at 21:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画

2009年10月20日

警告ラベル最適化ゲーム

091019-150734.jpg某所のトイレで見つけた警告ラベル。

ご使用方法を誤るとお子さまがケガをしたり、火災の原因になることがあります。

とあった。「したり」を使うなら、2回だろうなあ。

ご使用方法を誤るとお子さまがケガをしたり、火災の原因になったりすることがあります。

しかしこれではなんだかくどい。では

ご使用方法を誤るとお子さまのケガや火災の原因になることがあります。

でどうか。さらに読点を入れて

ご使用方法を誤ると、お子さまのケガや火災の原因になることがあります。

としたほうがわかりやすいかな。「ご使用方法」が堅いから

使いかたを誤ると、お子さまのケガや火災の原因になることがあります。

としたほうが親しみやすいか。しかし言わずもがなのことだし、この一文は削除でいいかもしれんなあ。
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2009年10月17日

映画『ブロークン・フラワーズ』

孤独な中年男ドン(ビル・マーレイ)のもとに、20年前に別れたかつての恋人だという匿名の手紙が届く。そこには、別れたときにお腹にいたドンの子を生んで育てたこと、その子が父親であるドンを探す旅に出たということが書かれていた。ドンは手紙の送り主と、息子の存在の真偽を確かめるため、かつての恋人たちを訪ねて回る旅に出るのだが…、という話。

淡々としたカタルシスのない物語なのだが、説明的な要素を削りつつ意味ありげなショットで想像力を刺激する超センスのいい映像表現と、なんともいえないあやしいBGMで、観る者を引き込んでいく。この雰囲気、ジム・ジャームッシュに似ているなあと思ったら、ジム・ジャームッシュ作品なんだな、これ。

主演はビル・マーレイ。終始ゆううつな表情で哀愁を漂わせつつ、どこかおかしみを感じさせる魅力的な中年男像は、この俳優ならではなかろうか。短い出演だが、シャロン・ストーンやジェシカ・ラングなども味のある演技を見せている。
posted by kunio at 06:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画